20XX年2月某日、佐藤家の場合 第二話:電気もガスも水道も停止!

部屋の温度がかなり下がってきた。
停電でエアコンが止まっているから、当然だ。
おそらく今の外気温は3度くらいだろう。
これ以上室温が下がったら耐え難い。
(そうだ、以前使っていた石油ストーブが納戸にあったはずだ)
何年も使ってなかったストーブを引っ張り出してきた。
幸い、タンクに石油が少し残っているようだ。
点火してみたが、異様な匂いがする。
(これは、ダメだ…)
真弥子は吐き気に襲われた。
灯油がかなり劣化しているようだった。

ラジオは、NHK防災アプリの利用を勧めるものの、回線が混雑しているせいか、アプリがダウンロードできない。
何度もやっているうちに、バッテリー残量が20%を切ってしまった。
(まずい!スマホは家族との生命線なのに)
こうなる前にしっかりアプリを入れておくべきだったと後悔した。
津波警報が出ているようだ。
真弥子の家は心配ないが、夫が車内に閉じ込められている場所は埋立地で海に近い。しかも地下だ。
真弥子の心臓は再びバクバクと音を立て始めた。
(茶でも飲んで落ち着こう)
そう考えた真弥子は、やかんにペットボトルの水を入れ、火にかけた。
(あれっ?….火が点かない)
これは困った、ガスも止まっているのか。

《その時、夫・一郎は?》
地震発生から、すでに30分は経過しただろうか。
車両はあ動く気配がない。
このような災害時は、非常電源で最寄りの駅まで走らせるのではなかったのか。
車内は、80%程度の乗車率。車掌が繰り返し
「おちついてください、まもなく動きます」
とアナウンスするものの、一向に動き出さない。
「津波がくるんじゃないか?」
誰かが呟いた。
一郎も急に不安になった。
その時、新たなアナウンスがあった。
「車両の最前部と最後部にある出口から最寄り駅まで歩いて避難します」
この10両編成の列車には、少なくとも1000人以上が乗車している。
たった2つの出口しかないとすると、どれだけ時間が掛かるやら。
その間に津波の水がこの地下に流れてきたりはしないのか。
一郎の不安はピークに達した。

《都内某区・佐藤宅》
ドンドンドン、玄関のドアを叩く音。
「佐藤さん、大丈夫ですか」
同じフロアに住む鈴木さんだった。
義母が部屋に閉じ込められていることを話し、手伝ってもらうことに。
一緒にドアを押してもらい、30センチくらい開けることに成功、義母はなんとか部屋から出られた。
義母の足の怪我は出血はないものの、痛くて歩けないというので、骨折の可能性はありそうだ。
「トイレなら、徒歩5分ほど先にある小学校に非常トイレが設置されているようです」
と鈴木さん。
しかし、ここはマンションの5階。エレベーターは動いてない。
ただでさえ、足腰が弱っていた義母には無理だ。
次から次へと押し寄せる難題に、真弥子は頭を抱えた。〈つづく〉

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